東方物語録 ~東方二次小説置場~

『堕華(おちばな)』っていう馬鹿が小説を公開してる所です。不定期でない程度に不定期。

東方絶天火 ~最終章~

意識が戻った時、アジ・ダカーハは既に檻の中にいた。

 

檻の柵には無数の札が貼られていた。札には「博麗」と刻まれている。アジ・ダカーハは試しに柵に触ってみたが、想像を絶する高熱で、反射的に手を離した。それは何度やっても結果は同じだった。檻の外をみると、定期的に光る紋章が描かれている。アジ・ダカーハはその紋章を見た事がある。遥か昔に、戦争を挑んで敗北し、神格にされた時の、呪縛の紋章と全く同じだった。

嗚呼、また負けたのか。そう思い、過去の出来事を思い出そうとする。その時、不意に外から声がかかった。

「住み心地はどうだ、アジ・ダカーハ」

檻の外から声をかけたのは、キングアトラスである。天上天下に名を轟かせる、一神話の主神。かつて戦い、敗北した相手。アジ・ダカーハは彼女の姿を確認するなり、大きなため息をついた。

「キングアトラスか・・・・・、どうした、此処から出してくれるのか?」

 それを聞いたキングアトラスは、呆けた顔をし、プッと小さな笑いを漏らした。

「まぁ、そうだといいんだがな。お前の身柄は、紅竜玉神殿に一任された。で、お前を管理する立場として、聞きたい事がある」

アジ・ダカーハは目を細める。この状況で、聞きたい事とは何なのか。

「お前はまだ、封印が解ければ幻想郷を壊しに動くか?」

キングアトラスはこれ以上にない真剣な声音でアジ・ダカーハに問う。アジ・ダカーハはその程度の事か、とまた大きな溜め息を吐き出した。キングアトラスはその行動を見てガックリと肩を落とす。

「此方が真剣に聞いてんのに、反応がそれか?」

「すまないな、その程度の疑問とは思っていなかった。しかし、それを聞いてどうする?」

「聞いてんのは此方だ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・、」

アジ・ダカーハは檻の中から外を見上げる。紅竜玉神殿はガラスか何かの屋根で、室内からでも空を見上げる事が出来る。

太陽が西の空に沈みかけている、黄昏時だった。

「無い・・・・・、な。少なくとも、今は無い。幻想郷は思ったよりも頑強だった。我が此処から出て、再び支配に動けば・・・・・、今度こそ魂まで滅却するだろう。今回も、以前負けた時も、我を殺せるのに殺さなかった。慈悲の下に我は生きてきたのだ。理由は分からんが、我はそこまで期待されていたのだ。もう野心を持とうとも思わん」

それを聞いたキングアトラスは、にやけるような笑顔を見せた。アジ・ダカーハはその笑顔を見るなり顔をしかめる。

「何だ、その顔は。一応、綺麗事を言ったつもりなんだが」

「いや、お前がやっと野心を捨ててくれたと思ってな、少し笑みがこぼれた」

と言いつつ、耐えきれず爆笑するキングアトラス。

アジ・ダカーハは変な目でキングアトラスを見る。キングアトラスは涙をこぼす程笑った後、少し笑みを残して、

「野心が無いなら大丈夫だろ。アジ・ダカーハ、お前を檻から出してやる」

「・・・・・、何?」

アジ・ダカーハは疑問に思った。破れたとはいえ、自分はこの幻想郷を壊そうと企んだのだ。幻想郷の住民が猛反発してもおかしくない。

自分を討った妖怪達が、この神殿に雪崩れ込んで、自分を問答無用に殺しても文句は言えない立場である。

「感謝すると良いさ。何でも、この幻想郷は全てを受け入れるとか何とか、って妖怪の賢者が言ってたぞ。流石にすぐ解放、てのは難しく、力を封印して、ひとまずこの神殿限定に限る、っていう話だ」

「だが、我はあの鬼に憑いていたんだぞ?しかし今は隔離された。我には、」

体が無い、た言いかけたアジ・ダカーハは、自分の両手を見た。

そこには、自分の華奢な両手が有る。

「何故、我には体がある?」

自分の両手を他人の物の様に見つつ、キングアトラスに問う。キングアトラスは人には両手がある、と言わんばかりと当然の様に、

「この幻想郷では非常識が常識なんだと。そこらは今から勉強せにゃワケわからん」

両手を挙げて降参のポーズをとるキングアトラス。アジ・ダカーハは自分の手で自分の顔を触り、

自分の体に触ったのは、畿星霜ぶりだろう、と思わず笑みをこぼした。その笑みは元々残虐と殲滅を司った悪竜とはかけ離れた、一人の少女の純粋なものだった。

「了承した。我はこれから人妖を食らわん。キングアトラスの眷属となろう。この幻想が生きる、大いなる大地の加護の下に生きよう」

 

 

 

「・・・・・てなワケでアジ・ダカーハを解放したが、本当に良かったのか、霊夢?」

キングアトラスが博麗神社の賽銭箱に座り、竹箒で境内の落葉を掃除している霊夢に言った。

アジ・ダカーハの暴走から既に三ヶ月が経過していた。今はすっかり落葉の季節である。以前の異変は畏怖集めから暴走までに発展してしまった物だ。計算不足だった首謀者、キングアトラスが十中八九悪い。で、キングアトラスを中心とする異変側は、敗北したならとほぼ全ての情報を公開した。

元々、畏怖集めは力を数割取り戻し、その力で、リルアの魔法によって祖国の大軍を召喚する為の前段階。気温上昇は太陽への畏怖をねらったもので、それ以上の目的は無かったという。

しかし、畏怖集めが大成する前にアジ・ダカーハがキングアトラスの力不足に気付き、逃走し、リルアに憑き、結果暴走にまで至ったらしい。

「いいわよ、別に。紫もいい、って言ってたし」

竹箒で掃除を続ける霊夢。キングアトラスは文書で「幻想が生きる地がある」として幻想郷をある程度知っていたが、本当にここまで抱擁するとは思ってなかった。

戦争犯罪人は当然打ち首。敗者は徹底的に蹂躙される。される方は決して文句を言えない。これがキングアトラス達が元いた世界の常識である。

この点で、幻想郷は共存の究極系だと確信していた。

これが、現世の楽園。このような土地は、数多の世界を歩き、侵したキングアトラスでも知らない。よくこれで秩序が安定するものだ、と思ったくらいである。

「ほんとに良い所だ。間違っても侵略できなくて良かった」

 

キングアトラスら、通称【帝国】と幻想郷は平和条約を結んだ。これは幻想郷をどう解釈すればいいかわからず、とりあえず国家として認識した(誰が統治者とかは決まっていない)。平和条約を結んだ上で、帝国側は、

 

1、帝国は、幻想郷への軍の派遣・駐屯を禁止する。

2、帝国は、現在幻想郷に存在する「紅竜玉神殿」に住まう者以外の帝国人の、幻想郷への干渉を禁止する。

3、帝国は、今後悪竜【アジ・ダカーハ】の行動を厳重に監視する。よってアジ・ダカーハの所持権限は帝国側にあることになる。

4、帝国は、幻想郷への侵略行動を一切禁止する。

 

という内容を突き出した。ちなみに、此れを決めたのは帝国側の偉い人で、この暴挙に遺憾を示し、神殿の皆を長い間説教した。

 

何はともあれ、これで【炎天異変】は幕を閉じたのである。

「じゃぁ・・・・・、」

キングアトラスは賽銭箱から降りる。

「宴を始めるか。場所は我が神殿の境内。人を、妖を、神を、あらゆる幻想郷に生きる者を集めて盛大な物にしてやろうじゃないか」

 

 

 

 この宴から、紅竜玉神殿は幻想郷の住民となる。

そして、盛大すぎる宴のせいで紅竜玉神殿がたちまち財政難に陥ったのは言うまでも無い。

 

 

 

 

 

終わった。遂に終わった。13話続いた異変が、やっと終わった。

これまでご愛読して頂き、誠に感謝の意を皆様に捧げます。

だからといって、白夜達の幻想郷での話はこれで終わった訳では有りません。一応、番外編とこれ以後の話を考えています。それらは短編。あと、次の長編小説のプロットも考えています。

これで一つの話が終わりますが、未だに全ての話が終わってはおりませぬ。

次の番外編とその後、更なる長編をお楽しみに。