東方物語録 ~東方二次小説置場~

『堕華(おちばな)』っていう馬鹿が小説を公開してる所です。不定期でない程度に不定期。

東方絶天火 ~Evil deity of the far-off continent.3~

「壊すだと? そんなの軽く言えるものなのか」
魔理沙が空に浮かぶリルアに向かって問う。だが、言った本人も自分の口から放たれた言葉に困惑しているようだ。
「おかしいな、私はこんなに綺麗な土地を征服しようとは思って無いのに。口が勝手に動くわけが」
その光景を静かに見ている霊夢は、リルアの体を再三見直しつつ、札を何時でも使えるように準備する。横目で見ていた魔理沙が隣の霊夢の臨戦行動に気付き、
「どうした霊夢? けっこう物騒な顔をしているが」
と聞いてみた。霊夢はすぐには振り向かず、臨戦体制を整え終えてから魔理沙の方に顔を向けた。
「あの鬼の体から、本人の物じゃ無さそうな禍々しい気配を感じるわ。それも、相当大きい」
「本当かよ。私は何も感じないが」
霊夢がそう言うのだから、相当な力なのだろう。そう言ってリルアに向き直る霊夢。それにつられて魔理沙もリルアの方を向いた。リルアはまだ自分の体に疑問をぶつけている。
「そもそもさっきから体の中に感じるこの邪気は何? 可笑しい、確かにこの気配は私の物じゃない。もっと根本から違う禍々しい物、しかも何度も感じたことのある。たしか、これはキングアトラスから・・・・、ま・・・・・・・さ、か・・・・・・・」
と、その言葉を最後にリルアは急に黙ってしまった。まるでシャットダウンした機械の様に、頭だけを垂れ下げて意識を失ったようだ。
「意識が無くなったみたいだが、何だ? 上から吊らされているみたいに浮かんでるぞ」
魔理沙がそう感想を言うが、霊夢魔理沙を手を出して黙らせる。
「どうした?」
「来るわ。禍々しい何かが」
霊夢が言い切った瞬間に、リルアの顔が起き上がった。とくに変わった様子は無いが、有るとすれば。先ほどのリルアの困惑した表情とはまるっきり違う、残忍な思いを顔に秘めた、恐ろしい笑顔。
明らかに、リルアと全く違う意識である。
「失礼。先程我の意識が表層に出てきたな、お陰で多少困惑しただろう」
口調や威厳がリルアと全く違う事は、瞬時に理解ができた。
「困惑なんてしてないわ。あんたの殺気がリルアの体からだだもれだったから。で、あんたは誰よ」
霊夢の問いを聞いたリルアではない誰かは、小さな溜め息をついて空を見上げ、口を開く。
「我は全ての生命を喰らう者。一度は戦に負け、力を抑えられ他人を神化させる神格にまで成り下がったが、今は良い憑代に恵まれている。この力で今一度戦を起こし、かつての栄光を取り戻す」
何かを掴むように空に掲げた掌を握る自称【全ての生命を喰らう者】。
「全ての生命を喰らう者、ってのが名前なのか? 随分とおかしな名前だな」
魔理沙の指摘に、【全ての生命を喰らう者】は魔理沙に顔を向ける。
「そこの魔女。お前は『ゾロアスター教』を知っているか?」
ゾロアスター教? ま、少しだけ知ってるぜ。外の世界の宗教で、善悪がなんたらっていう奴だろう?」
「全然理解できてないが、大方はそうだ。その、ゾロアスター教には二種類の神霊がいる。片方は善性を謳う者。もう片方は
「絶対悪を謳う者。あんたはその中でも悪の根源とされる悪竜、【アジ・ダハーカ】、でしょ?」
霊夢がアジ・ダハーカの台詞を見図ったかの様に言った。
「何だ霊夢、お前もゾロアスター教を知ってたのか」
「多少はね。多分偶然だと思うけど」
「偶然か。我は偶然ではないと思うぞ。全ての出来事には必ず何かの関連性が有り、それが何かの事象を起こす原因となる」
そう言い切ってリルアの体を乗っ取ったアジ・ダハーカは、リルアの力を強制的に解放して、大空を覆う程の陣を構築した。
「我はこの幻想郷を破壊し、畏怖によって力を取り戻すつもりだ。貴様らに正義を謳う思いが有るのなら、我をその手で今一度封印してみろ」
ここで魔理沙も臨戦体勢に入り、箒に跨がる。霊夢も札とお祓い棒を構える。
「準備できたな? 逝くぞ、『悪災・阿鼻叫喚の宴』!」
弾幕と共に恐怖の叫びが放たれる。恐怖の叫びは二人の耳に不協和音を響かせ、不愉快気分にさせた。弾幕はドス黒く、細かい動きにも反応する大型誘導弾となってとばされた。だが、それ以上に。

「何これ・・・・・・、尋常じゃ無いわ!! 何処からこんなに力が湧いてくるのよ!?」
飛来する数多の弾丸を一重で避けきる霊夢。だが、アジ・ダハーカの放つ弾幕は、無慈悲と残虐を混ぜた気配と、非常に高い密度で構成されている。耳に響く不協和音は、二人に悪い影響を与え、より一層攻略困難の弾幕に変貌させていた。
「気分悪いぜ。こんなにやりにくいのは初めてかもしれん」
魔理沙もたまらず弱音を漏らす。
悪竜、アジ・ダカーハはゾロアスター教で【悪の根源】とされ畏怖された神霊である。伝承によれば、一度に千の魔術を操る事ができるという。更に、強力な不死性を持ち、傷口から溢れる血が魔獣と化して数多の英雄を苦しめたらしい。
「伝承通りの能力が有るとすれば、『千の魔術を操る程度の能力』か『傷口から妖怪が溢れる程度の能力』? 程度なんて次元じゃないわ、ここまで悪質な力が有っては・・・・・・くっ!!」
鼻先三寸の間合いで弾丸を避けた霊夢。だが、殺意の籠った弾丸は次々と放たれている。
完全に無駄な弾がない、これまでの戦いとは違う超越した戦闘。
「我を封印するか殺す以外に、この幻想郷を守ることは出来んだろう。だが、お前たちだけでこの大義を成す事が出来るか? お前たちはアーサー王や、ジャンヌ・ダルク、スラエータオナのような英雄では有るまい。その様な者に、我を滅ぼせるのか」
激しい弾幕を放ちながら、アジ・ダカーハは問う。当然のように、二人は口を紡いだ。
「答えは、ノーだ。その程度の輩に、我が倒れるとは思わんからな」
嫌味。アジ・ダカーハは、霊夢魔理沙に負けることは断じて無い、悟っていた。
「言ってくれるじゃねえか・・・・・!『ファイナルスパーク』!!」
魔理沙が、光の滝と錯覚させる巨大な魔砲を放った。ファイナルスパークと表された魔砲は、アジ・ダカーハの弾幕を消滅させながら本人を狙う。ファイナルスパークは本気で使えば、光と同じ速さである。そのような速さを体さばきだけで回避できる者は、それこそ光より早い者しかいない。
アジ・ダカーハは、自分の身を滅ぼさんと迫る魔砲を見るなり、
「中々だが、無駄だ」
直に受けた。
「お、直撃した・・・・・・・って、」
光の滝が直撃したにも関わらず、一歩も後退せず、何事も無かったかのように直立するアジ・ダカーハ。
「もはや反則だろ・・・・・・」
「無駄だと、言っただろう? 運命を背負う英雄でもないのに、我を倒す事は出来ん」
アジ・ダカーハは右手を掲げる。すると、ファイナルスパークで壊された陣が再構築された。
「中々良い余行だった」
アジ・ダカーハの右手から放たれた、濃い紫色の魔砲。二人が気づいた時には、既に目の前まで迫っていた。
「・・・・・・・っ!?」

反応すら許されない一撃が、寸前まで迫った時。
「させるかいっ!!」
魔砲が、切り裂かれた。四散した魔砲の欠片は剣によって受け流され、遥か後方で霧散していく。
アジ・ダカーハの一撃を受け流した少女。霊夢魔理沙の目の前に、虎の尾を持つ、着物姿の妖獣。少女が持つものとは思えない、巨大な刀を両手に持っている。
「何とか間に合ったな・・・、レミリアの言った通りにして良かった」
「だ・・・・・・、誰?」
この虎の少女は、どうやらレミリアのことを知っているらしい。虎の少女はすっと霊夢達の方向を見た。
「長ったらしいから名前は省く。私はリーヤ・テルース、と言う。今はこれだけで良いだろ? 目の前にあんなのが居たら、冷静に自己紹介しようとは思えない」
と言ってリーヤはアジ・ダカーハを指差す。
「ところで、見た感じはリルアなんだが、何が起きたんだ? 気配は完全に彼の悪竜そのものだが」
「まぁ、どうやら体を乗っ取ったらしくてな」
リーヤの問いに、魔理沙が答える。リーヤは納得したように頷いた。
「あいつ、そんな力まで持ってたのか。では、アジ・ダカーハ」
今度は、リーヤがアジ・ダカーハに問う。
「何だ?」
「何故神格に成り下がったお前が、此処に存在する? 神格に成り下がった今、リルアを乗っとるなんて不可能のはず」
「不可能ではない。こうして現に、我が存在している。我をどうするつもりだ?」
「語るまでも無い、また封印するに決まっている」
「ほう? まさか、今我を穿たんと神の槍を構える、吸血鬼とだけで我を討ち取ろうと考えているのか?」
アジ・ダカーハの語尾で、南西から放たれる神槍『グング二ル』。高速回転する槍を、アジ・ダカーハは片手で受け止めた。だがその威力は衰えず、アジ・ダカーハの動きを止めた。
レミリアが居るの・・・・・・!?」
「私の神槍を止めたとは中々ッ!!」
南西から高速で間合いを詰めたレミリアが、アジ・ダカーハの懐に迫った。
「食らえ・・・・・・・っ!」
アジ・ダカーハの腹に回し蹴りを食らわせる。アジ・ダカーハはグング二ルを止めていたため抵抗出来なかった。
が、
「吸血鬼か・・・・何故この炎天下の中で動き回れる?」
特に堪えた様子が無い。アジ・ダカーハは吸血鬼の体質的な問題に疑問が有ったが、神槍と共に考えを捨て、両手に怨嗟を込めた波動を集める。
「チッ・・・・・・、固いわね」
高速で間合いをとるレミリア。アジ・ダカーハは溜めた衝撃波をそのまま弾幕に変える。


「『恨め、怨め、常闇の誘い』」


再び、不協和音が鳴り響く。レミリアとリーヤは、反射的に耳を塞いだ。
「何この音、気分が・・・・・・」
「吸血鬼といえど、この怨嗟は耐えれんだろう.弾幕に当たれば楽になるぞ」
「いや・・・・・・、楽になるのはお前だ、アジ・ダカーハ!!」
リーヤは片方の刀を天高く投じた。刀は空高い所で花火の様に爆発する。
「何の真似だ?」
アジ・ダカーハが、すぐ目の前のリーヤに問う。リーヤは、アジ・ダカーハに言い返すように答えた。
「俺の能力で、付近の強力な妖怪が否でも応でも此処に集まるようにした。アジ・ダカーハ、妖怪妖獣人間亡霊神霊を、なめるなよ・・・・・!!」

 

「・・・・・・・・・・、この程度の数で、我を討伐しようとでも?」

リーヤの能力で召集されたのは、見渡す限り幻想郷の主だった妖怪達と、神霊や亡霊である。
「こいつら皆を同時に相手にしても、勝算があるってことか」
魔理沙は十分な距離を保った場所で言った。一部、召集に反応しなかった者も居るが、召集されたざっとした妖怪は、

境界の妖怪、八雲 紫。
幽冥楼閣の亡霊少女、西行寺 幽々子
小さな百鬼夜行、伊吹 萃香
山坂と湖の権化、八坂 神奈子。
悪魔の妹、フランドール・スカーレット
四季のフラワーマスター、風見 幽香

強力な妖怪が数多に居る幻想郷でも、屈指と謳われる者達。アジ・ダカーハは、この戦力を見て「相手にならない」と言っているのだ。
霊夢に、紫と神奈子が近付いてきた。両者とも、アジ・ダカーハを見て驚愕の表情である。
霊夢? あれはアジ・ダカーハで宜しい、のかしら?」
「えぇ。アジ・ダカーハの魂が鬼に宿ったらしいわ」
神奈子がアジ・ダカーハを細い目で睨む。
「アジ・ダカーハは、何処かの山に封印されていたと聞くけど。どういう事?」
「え? それは知らないけど」
霊夢が困惑の表情を浮かべる中、リーヤが明後日の方向から近付てきた。
「失礼。あのアジ・ダカーハは此方の世界のアジ・ダカーハじゃなくて、俺達が元居た世界の奴だ。実力はほぼ変わらん」
「では、あれはアジ・ダカーハ本人、で宜しいのね? だとしたら、幻想郷の総力を結集しても、
「勝てない。同じ神霊の立場でも、私と立ち位置が全然違うわ」
「すまない。まさか、奴がキングアトラスの封印から逃げ出せるとは思ってなくて」
四人に押しかかる重い空気。
「紫。あいつの存在の境界を弄って消す事は」
「無理ね。私より格上で効果も期待できないし、アジ・ダカーハは【悪】。善悪の境界が存在しないわ。それ以外の境界が見当たらないし」
「紫のチートでも無理か・・・・・」
これといって良い打開策が浮かばない。アジ・ダカーハが、どれだけ強力な神霊か思い知らされる。幻想郷に、アジ・ダカーハと同格の神霊が居ないと、封印も難しいだろう。

だが、まだ手はあるのでは? 霊夢は、ひっかかった。
「アジ・ダカーハを、封印するのは?」
「え?」
「リーヤ。聞いてみるけど、アジ・ダカーハを此処で封印って出来ないの? 以前は封印していたようだけど」
「封印、自体は可能だ。以前はキングアトラスの力で封印していたからな。だが、キングアトラスも幻想郷に来てから力が格段に弱くなっているぞ」
「その力は、アジ・ダカーハも比例して弱体化してるかも。それでも?」
「あぁ、無理だな」
「アジ・ダカーハも弱体化してるなら、幻想郷の力を合わせて、私とキングアトラスでアジ・ダカーハの魂を封印する」
「・・・・・・・、惜しいとこまでいくか」
「白夜の力も借りて」
リーヤがはっとする。そういえば、自分達がぶっ飛ばして忘れていた、最強の武神の存在。
「いけるんじゃないか?」
何時から居た、と言わんばかりにキングアトラスが口を挟んだ。隣で気付かなかった紫は驚いて飛び跳ねた程、気配を消していたくらいである。
「キングアトラス、いける? この策で」
「上手くいけば、な。ただし、封印自体は俺と霊夢と白夜で十分だが、本格的な封印の陣が必要だな。そこでだ、紫」
「え、何?」
キングアトラスが紫に親しく話をしているので、この二人は何かしら接点があったのだろう、紫は嫌そうな返事をした。
霊夢と俺と白夜で急いで用意するから、その他大勢で時間稼ぎを頼みたい。準備さえ終われば、あとは此方でやるから。準備完了の合図をしたら、どうにかしてスキマに奴を入れてもらえばいい」

「・・・・・・は~。仕方ないわ、此方は任せなさい」
しばし考えた後、紫と神奈子は再びアジ・ダカーハの居る方向へ飛んでいった。近いうちに、総攻撃が開始されるだろう。
「キングアトラス、そういや白夜は?」
「こんな事になるだろうと思って、既に陣の構築を開始してる。この神殿全体の力で封印するから、封印する主脈はこの神殿の本殿だ」
キングアトラスは早くしろ、言わぬばかりに首を振った。
「いや~、博霊の巫女が居て良かったな、じゃないと力量不足でアジ・ダカーハの封印は不可能だった」
霊夢が本当に?と言いつつ飛ぶ。キングアトラスも霊夢と並行するように飛び始めた。

「悪竜アジ・ダカーハ、此処で奴の悪事も終わりだな。憑代が強くて力が溢れてきても、三千億の信仰を弄ぶような最強の鬼神にケンカを売って、タダですむとは思わん」
キングアトラスは霊夢にも聞こえないような小声で独白した。