東方物語録 ~東方二次小説置場~

『堕華(おちばな)』っていう馬鹿が小説を公開してる所です。不定期でない程度に不定期。

悪竜が歩いた跡・一

「だ、第十六機械化大隊が消失ッ! 本隊の撤退に間に合いません!!」

「奴が、アジ=ダカーハが、再び進撃を開始しました! 残存機械化大隊を全てぶつけます!!」

速度を出して一つの竜影に突撃していく機械の群れ。それの全てが、一撃の、正しくは三頭から吐き出された三つの熱線によって忽ち消滅した。

「機械化大隊全滅! 撤退が間に合いま

殿を任されていた部隊の一番位が上の人。即ち隊長が、竜の攻撃を受けて即死する。その余波はこの領域全体に広がり、天の雲は消滅。大地は根こそぎ抉られ地平の向こうに居た本隊を塵芥の如く吹き飛ばした。

三頭についた六つの目は死角が無い。全ての視界に敵となる対象を探し、かろうじて生き残った者の命を眼光だけで死に至らしめる。他に標的は無いか、と死角の無い三つの頭で探すが、それは見つからなかった。

 

それをもう一度確認したアジ=ダカーハは、世界に対して鼻で笑った。

 

「世界の守護者とは名ばかりか。尾を捲いて逃げよって」

帝国。世界の八割もの領域を保有する世界最大最強の軍事国家である。故に、保護国に対しては駐屯軍を派遣し治安維持と防衛にまわっている。

その帝国の保護国を、アジ=ダカーハは襲った。逃げ惑う民を襲い、喰らい、残虐という言葉が生温いと思う程の手段で死に至らしめた。その報復として帝国は、先程の軍隊を派遣したが簡単に全滅してしまった。帝国本土はその対処に追われているだろう。

 

黒い三頭竜。『悪竜』アジ=ダカーハは世界に対して反旗を翻した。

 

何者かによって封印が解かれた自分。封印を決行した帝国に反旗を翻し、復讐するのは至極当然だ。自分勝手な復讐心で動くのも一興だろう。

アジ=ダカーハは六つの目で空を仰ぎ、世界の情勢を確認する。『悪竜』アジ=ダカーハの復活に、世界中が混乱しているようだ。暴走し始めて一刻程だが、もう広まっているらしい。避難誘導は早いものだ、とそれについては感心する。それと同時に、最優先に防衛強化をしている新しい『標的』を見つけた。

「次は四大都市を襲うとするか」

【真実結界】。帝都とその周辺都市群を防衛する大結界である。その中枢となっているのが四大都市。帝都、大規模神殿に続く大要塞として君臨している。それが一つでも陥落すれば、帝都の民は一体どれだけの恐怖を覚えるか。

アジ=ダカーハは決めた。四大都市を襲い、その後帝都を襲撃する。我を封印した輩を一匹残らず殲滅する。アジ=ダカーハは心に決め、現在位置より南・北の大都市群に向かった。

 

 

北の大要塞、『金剛城』。高い防衛能力でその名を轟かせている、【真実結界】の拡張を担う要塞だ。

―――――――深い、深い蒼色の髪が靡く。

帝国の脳髄とも言える名将、セイジ=幻月=アルカディアが『金剛城』に待機していた。アジ=ダカーハの封印が解かれたと同時に、帝都・帝国議事堂に特別対策本部が設置され、迎撃にあたり帝国の最強戦力たる四人の魔王を、四大都市それぞれに派遣している。

 

北には境界の覇者、セイジ=幻月=アルカディアを。

東には最強の戦女神、華翠玉 白夜を。

南には太陽の神霊、リヴェン・キングアトラスを。

西には勝利の先導者、麗翠九獅・リーヤ・テルースを。

 

紅竜玉神殿には天雷の悪魔、リーザ・ヴァルボロスト、帝都には全知の鬼神、リルア・オムニポテント・ヘルヴェルを配置した。迎撃での陣形ではこれが最もと考えられている。その中でアルカディアは、アジ=ダカーハに一番近かったこの金剛城に派遣された。

アルカディアの能力は、『境界を行使する』ものだ。物事の境界、物質・精神界の境界を総じて操れる。アルカディアはこの能力を使って、金剛城を『帝国が存在する世界とは別の世界に隠した』。【真実結界】に送られるエネルギーには問題無い。帝都が落ちなければ、アジ=ダカーハに勝ち目は無い。此処でアジ=ダカーハが手古摺る間に、他の要塞から全ての戦力をぶつければ再封印も可能だろう。アルカディアはそう考え、金剛城の一番高所の天守から外を見る。外に元々広がっていた山々は現在は無く、かわりに平原が広がっている。別の世界であるここまでに、アジ=ダカーハは来れないだろうと一息ついた瞬間。

 

世界が恐怖の声で染まった。

 

「まさか!?」

アルカディアは急いで天守を飛び出し、宙を浮遊する。アジ=ダカーハの気配を探るが、それに大した時間は要さなかった。

空間を引き裂き現れたのは、黒く染まった身体を持つ小柄で圧倒的な存在を誇る『悪竜』。三つの頭がそれぞれ、地獄の鐘かと思わせる咆哮をした。

それにより、鉄壁と謳われた金剛城は倒壊寸前にまで揺れ渡る。

「叫び声だけで、よもやこれ程とは!?」

外で巡回していた者は人妖問わず即死だっただろう。天然物において圧倒的な硬度を誇る金剛で建てられた城が叫び声だけで倒壊にまで追いやられるのだ。生身では生きていられる筈が無い。アルカディアだけは咄嗟の防御で、例外的に生き延びた。

「城の中に居る者は大丈夫だな!? 地下壕への避難と同時に、他の大要塞に伝達!『敵は北にあり』以上だ、早く伝えろ!!」

耳元の通信機に叫んだ後、それを握り潰して廃棄する。これ以上持っていても、戦いの邪魔になるだけだろう。

アジ=ダカーハはアルカディアの顔を見て、鼻で笑った。

「貴様は、あの時我を封印した輩の一人か。その顔、よく覚えているぞ」

「覚えててくれてありがと、『悪竜』アジ=ダカーハ。此処で暫く話でもしたかったけど、それは不要だ。即刻、討伐する!!」

アルカディアは所持する剣を引き抜いて、アジ=ダカーハに突撃した。アジ=ダカーハそれを三つの首で反応し、迎撃に数多の命を奪った熱線を吐く。

「っ」

熱線との間合いを瞬間で把握し、必要最小限の動きで、即ち紙一重で熱線を回避する。蒼色の髪の先端が焦げた、と同時に一刃をアジ=ダカーハに浴びせた。

「ふん」

アジ=ダカーハはその斬撃をわざと受ける。両腕の爪は背徳とも言える程禍々しく鋭い。その両爪でアルカディアの攻撃を受け止め、反撃に出る事も容易だった筈。

「そういえば、お前はこのような汚い力を持っていたな」

「然もありなん。揺るがない事実の一つだ」

アジ=ダカーハの傷口から漏れ出る血が霧となり、それが集って二人の悪魔を形どった。二人の悪魔はどちらも異形であり、神話に伝わる悪魔とは即ちこれだろうと思われる風貌である。

「第一世代の悪魔共。英雄すらも手を焼いた存在だ、いけ」

二人の悪魔がアルカディアを襲う。その剛腕は千年生きた大樹を容易く折りそうな太さだ。その筋肉自体が至上の装甲であろう、二人の悪魔に防具らしい防具は無い。

だが、アルカディアはその二人の悪魔を見ても余裕に笑って見せる。

「私の能力を長い年月で忘れたか。それ程までに悪竜、お前はボケたか?」

アルカディアは不可視とも言える程の鋭い剣閃を悪魔達に浴びせた。その斬撃の傷は、治癒や出血よりも先に凍結していく。断末魔を上げる悪魔をよそに、その凍結は二人の悪魔をやがて包み込み、完全に冷凍保存され地に落ちて行った。

「境界と、永久凍土もか」

今度はアジ=ダカーハが、アルカディアにその凶爪を向けた。その禍々しい凶爪は、触れるだけでありとあらゆる物体を切り刻む恩恵を持つ。その凶爪が一撃でも直撃すれば、どのような生命でも無事ではすまない。焦土に転がる一つの屍と成り果てるのみ。

「私の一撃は、効いていないのか・・・・・・・・・」

見れば、凍結する前にも出血が止まっている。かなり高熱の血だったのだろう。アルカディアは先程のように紙一重でかわさず、持つ刀でその凶爪を受け流した。受け止めては刀ごと自身の身が引き裂かれるのは必然的だ。紙一重で避けても、境界すらも引き裂くその凶爪が振るう時に生み出す風の刃が、問答無用でアルカディアの身を両断するだろう。

アジ=ダカーハは凶爪が避けられると、今度は巨大な顎でアルカディアの身を喰らわんと大口を開く。これは避けるどうこうの話では済まない、アルカディアは空中でも通用する自慢の俊足で間合いを開いた。アジ=ダカーハも所属する神話では悪神群の中で最速の足を持つが、アルカディアはそれを上回る。今度の手段はどうするかとアルカディアは頭の中で思考する。

その思考よりも先に見えたのは、アジ=ダカーハの凶爪だった。

「!?」

アルカディアは直感だけで凶爪を回避する。攻撃の弾道を予測する程の時間の猶予が無かった、自身でも悔やまれる一瞬だ。凶爪は回避するが、それから生み出される旋風はどうしようもない。アルカディアは境界の壁を作って、旋風自体を他の場所へ転送させた。回避が出来ない以上、アルカディアにはこの手しか旋風を回避する手段が無い。

だが、それが仇となる。

境界の壁を引き裂き、アジ=ダカーハがアルカディアを嘲笑った。

 

「死ね、境界の覇者」

 

鮮血が、飛んだ。

「がっ!?」

「一撃では死なないか。ならば」

振り下ろされる凶爪を、アルカディアは持つ刀でそれを受け流す。だが、アジ=ダカーハはその行為を読んでいた。凶爪を巧みに捩り、その刀を弾き飛ばす。

普段の状態なら兎も角、凶爪を一撃浴びた状態だ。全身の力が抜け、抵抗する余力も残されていない。

「・・・・・・・・・その俊足、アヴェスターそのものを飲み込んだか」

血反吐を吐きながら、アルカディアは問い詰める。アジ=ダカーハは隠すような事も無く、単刀直入に返答した。

「その通り。といっても、我も気付いたのは最初の討伐軍が組まれ我に攻撃を仕掛けてきた時だがな。何時、我にアヴェスターが取り込まれたかは我も知らん。我を復活させた何者かがそうしたのかもな」

「余計な事を・・・・・・・・・・!」

アヴェスターとは、アジ=ダカーハが所属する神話・拝火教の、言うなれば聖書のようなものだ。拝火教の中に記される善神悪神両方の力が全て、この聖典の中に封印されている。それを持つ者は人妖・修羅神仏問わず、莫大すぎる力を手に入れれる。その力は拝火教に属する全ての神霊・悪魔の力そのもの。個人が全て保有すれば、一人で一つの神群の力を持つと同義。一対一では通常勝ち目が無い。

「アヴェスターの所有権利を放棄してアジ=ダカーハに渡す? どれだけ馬鹿な行為か分かっていたのはそいつは・・・・・・・・・」

「そうゆう事だ。今後一切、迷わず死ね」

今一度振り下ろされる凶爪。アルカディアにはそれに抵抗する力は無く、ただただその光景を人言のように眺め―――――――――

一発の砲弾が、その行為を妨害した。

「っ!?」

驚いたのはアルカディアの方だ。この化物に砲口を向ける馬鹿が、一体何処に居たのか。

・・・・・・・・・・・・、居た。

「第一位神隊は左、第三神隊は右! 俺ら第二神隊はアルカディアの保護、牽制が終わり次第ただちに離脱!」

「任せろ」

帝国が保有する最強集団戦力、『帝国武神群』上層神隊と、国家になによりも忠誠心が厚い帝国空軍第一航空艦隊旗艦、超弩級戦艦『撃威』。第一神隊と呼ばれた二柱の神霊が、アジ=ダカーハの左手に回った。

「欲の支配人、神王の小間使いか」

「久しいな悪竜」

欲の支配人と呼ばれた緑色の髪をした男が、右手に電撃のようなモノを走らせる。それを、アジ=ダカーハに叩きつけた。

「この気配は、アヴェスターそのものか。面白い物を手に入れたな」

アジ=ダカーハの凶爪を、余裕の表情で受け止める。アジ=ダカーハの凶爪の恩恵が、全くと言って良い程働いていない。『神霊を支配する』立場に立つ小間使いと呼ばれた男が持つ能力だ。アジ=ダカーハ本人は支配しきれていないが、どうやら特殊能力の幾つかを封じられたようだ。

「小間使いの他に、破壊神二柱と・・・・・・・・、奴らは」

「『華翠玉』の一人! 蒼咲だ!」

名乗りと同時に、巨大な魔砲をぶっぱなしてくる一人の少女。帝国武神群でも最上位に位置する『第一神隊』の、小間使いと並び最強レベルの武神なのが蒼咲だ。

正確には、武神ですらないのだが。

アジ=ダカーハはその巨大な魔砲を、凶爪の一振りで跡形も無く薙ぎ払う。それによって発生した旋風がこの空域全体を蹂躙せんと走る。それは地上で半ば壊滅状態にある金剛城も例外ではない。

だが、金剛城に向かって行った旋風の山は、見えない壁によって弾かれた。

「華翠玉家の」

「銀刹、だ! 初めまして!」

自然界で最高峰の硬度を誇る金剛を、遥かに上回る防御力を持つ華翠玉家の一人、銀刹。アジ=ダカーハの一撃すらも物ともしないその強度に、アジ=ダカーハは目を張った。

「金羅、一撃お願い!」

「まっかせっな、さいッ!!」

 

ドゴンッッッッッ!!!!!

 

アジ=ダカーハの左の頭が、途轍もなく重い一撃に見舞われた。

「ぐっ!?」

あらゆる攻撃を余裕の表情で耐えてきたアジ=ダカーハの表情が驚きで染まる。痛み自体はそれ程でもないが、アヴェスターで強化されたこの身すらも揺るがすとは。

と同時に、何者が自分を襲ったかを瞬間で理解する。

「ふむ、双子のもう片方か」

「金羅!」

もう一撃、と金羅と呼ばれた少女がアジ=ダカーハを襲う。アジ=ダカーハは片腕を構えその一撃を受け止めた。だが、その防御の意味は無く衝撃がアジ=ダカーハを襲う。

「(防御不能の恩恵を持つ神霊、か)」

銀羅とは正反対の、『防御不能の攻撃を繰り出す』力を持つ金羅。その攻撃力の高さがウリだが、それが何だと言うのか。アジ=ダカーハはその凶爪で、金羅を抉らんと薙ぎ払った。

「我が結界よ!」

銀刹の一声。その一声で、金羅の身が銀色の光に包まれる。銀色の光は、アジ=ダカーハの凶爪を弾き返すとまではいかなかったが、光を失う代わりに金羅の身に届く前に押し止めた。

「再生!」

蒼咲の一声。すると光は再び神々しく光り出す。蒼咲の能力はあらゆる神霊の神懸りを操る事だ。何所ぞの再生の得意な神霊の力を借りたのだろう。

神霊の力を借りれるのだから、それは下位互換だ。神霊そのものの再生力には及ばないだろうが、それでも恐ろしいスピードで光が取り戻されつつある。

アジ=ダカーハはそれを待たず、再び、今度は両腕で確実に金羅の命を奪わんと振り上げる。

だが、再びアジ=ダカーハの身を抉る砲撃に妨害された。

アルカディアは回収した! 全神隊は『撃威』を援護しつつ離脱してくれ!」

その号令を聞いて、先程までアジ=ダカーハを襲っていた神霊達が一気に拡散する。それと同時に、

砲弾雨がアジ=ダカーハに向かって放たれた。

「面倒な」

アジ=ダカーハは片腕を横に薙ぐ。それにより発生する旋風が、眼前の砲弾を撃ち落としながら『撃威』に向かった。だが、それらは全て見えない壁に阻まれる。銀刹が何処からか、「我が結界よ」という声と共に結界を張っているのだろう。この間合いでは、あの障壁を突破するのは容易ではない。

次々に直撃する砲弾。それによる鮮血が、大地に落ちていく。

「わざとやっているのか・・・・・・・・・・、行け、我が眷族」

そのアジ=ダカーハの号令と同時に、ドクン、と大地が脈動した。

大地の精気を吸引して、血が霧となり霧が悪魔となって顕現する。先程は空気中で生まれたが、今度は数多の神霊が恩恵を残した大地の力を吸って生まれた悪魔達。先の二人の悪魔とは格段にレベルが違う。その数、約二百。その悪魔達が、守りを担当する銀刹に向かって進撃を開始した。それも、恐ろしいスピードで。

アジ=ダカーハはそれを見、それを遥かに上回るスピードで『撃威』に向かって突撃を開始した。砲撃による鮮血を物ともせず、撃威に辿り着いた瞬間に凶爪を振り下ろす。それにより旋風が弱体化した障壁を突破し、撃威の八つあった主砲の全てが爆発した。旋風は更に速度を上げて、砲台を切り刻みその間を走る船員を引き裂き数々の爆発と煙を立たせる。

アジ=ダカーハはトドメに、鋭い尾を撃威に打ち降ろした。

 

破壊音が木霊する。

 

たかが五メートルの身長のアジ=ダカーハと、山脈と見紛う程の大きさを誇る『撃威』。その身長差を気にさせない程の一撃が、『撃威』を揺れ動かす。

「右舷艦橋壊滅・・・・・・・・・、これ以上の戦闘は不可能です!」

「仕方ないな、ギル! 撃威を持って撤退!」

「めんどくせーな」

ギル、と呼ばれた男が、戦艦『撃威』の底部に高速で移動する。そして、片手一本で山脈級の大きさを誇る、アジ=ダカーハの一撃で段々と沈んでいく戦艦『撃威』を持ちあげた。撃威はギルに持たれ、帝都がある方向へ移動を開始する。それも、神霊が持っているとは思えない早いスピードで。

だがアジ=ダカーハにとってはその速度は、羽虫と同じようなものだ。やろうと思えば直ぐにでも追いつける。一瞬アジ=ダカーハの思考の中に「追うのを止める」というものが浮かんだが即刻破棄。「撃威」が何時しか、自分自身の大敵になると判断し、追撃に動いた。

「やっぱり動くかよ、おい小間使い!」

アルカディアを蒼咲に渡せ。私とお前でアジ=ダカーハの足止めだ」

「何分持つかね。蒼咲、アルカディアを頼んだ!」

神霊部隊を動かしていた指揮官らしい男が、アルカディアを蒼咲に受け渡す。そして、マントを翻して腕をアジ=ダカーハに向かって突き出した。

「吹き飛べ・・・・・・・・・・!」

 

世界に、突風が吹く。

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

アジ=ダカーハの追撃速度が遅まった。地上の全てのものを大空に吹き上げるような、それ程の突風がアジ=ダカーハ単体に吹いたのだ。

大地に根を張る大樹も、地下まで伸びる巨大建築物も、数万人入るような巨大な闘技場も、数千年も佇んだであろう巨岩すらも、生物非生物関係無く吹き飛ばす突風。アジ=ダカーハに直接的なダメージを与える事は出来ないが、時間稼ぎには持ってこいだろう。

「小間使い、合わせろ!」

「了解だ風神」

小間使いが、アジ=ダカーハに突撃を仕掛ける。と同時に、風神と呼ばれた男が小間使いに巨大な追い風を与えた。風による加速を得て、小間使いは瞬きの速度でアジ=ダカーハの眼前にまで迫る。

「疑似黙示録起動、『世界絶縁』。世界は神と縁を切る」

小間使いの掌に、あらゆる事象の怨嗟が込められる。

黙示録とは、何所ぞの特定された神話のお話の事、ではない。不特定多数の神話の中で、『人類が滅ぶ理由』を書き留めたものである。人類の生存こそが神霊の存在に繋がるので、神霊に対して黙示録のエネルギーによる一撃は最大級の影響を与える。

『世界絶縁』は、小間使いが疑似的に創り出した人類滅亡の原因である。その内容は、「人類は神霊達と縁を切り、その結果としてあらゆる災害が人類を襲い滅ぶ」というもの。故に、人類が滅ぶであろう全ての災害、それによる人類の怨嗟を込められている。

「黙示録か、ヤーザリ=ディマ=幻=バール。貴様の奥の手」

「やっと名前を言ってくれたな。まぁとりあえず死んでくれ」

小間使い、ヤーザリ=ディマ=幻=バールはアジ=ダカーハに黙示録の一撃を叩きこんだ。

「ぐ・・・・・・・・・・・っ!」

アジ=ダカーハはあえて、ヤーザリの一撃を受け止めた。途方も無い衝撃波がアジ=ダカーハを襲う。

黙示録の起動は、起動者に多大な負担を掛ける。ヤーザリが手練とはいえ、その決定事項の範囲外に居る事は無い。ヤーザリがアジ=ダカーハに攻撃している今こそが、アジ=ダカーハにとってヤーザリという障害を取り除く最高の機会なのだ。

アジ=ダカーハは、背徳の凶爪をヤーザリに振り下ろした。

「考えたな」

ヤーザリは防御の姿勢を一切取らない。アジ=ダカーハは小間使いが死を悟ったと見て、必殺の一撃をヤーザリに与えた。

 

否、与えようとした。

 

「最高のタイミングだ。流石、タイミングを読めるな」

「それはどうも」

アジ=ダカーハとヤーザリの間に一つの人影。その影はアジ=ダカーハの凶爪を、神々しい名刀で受け止めていた。

「貴様は」

アジ=ダカーハの表情が驚愕に、それから怨みに変化する。間に入った人物は、蒼咲に向かって叫んだ。

「蒼咲! 飛ばして!!」

その声と共に、アジ=ダカーハと目の前の人物だけの風景が変わった。アルカディアが、空間転移を行ったのであろう。草原が広がっていた風景とはとって変わり、地平の果てまで見える荒野に投げ出された。

「さて、これで一対一だな」

「お前が、よもや自分から現れるとはな。『常夜と白夜の魔王』」

目の前で邪魔をしてきた人物。それは、

最強の戦女神と謳われる、華翠玉白夜その人であった。

右手に持っている刀は名刀『菊一文字』。ある刀匠が製作した日本刀の総称ではなく、白夜本人が神鉄を鍛え抜いた世界最高峰の一振りである。

「どうゆう誼で、此処に居る」

「あんたに関係あるかい。帝都対策本部から、私があんたに会ったら『討伐か捕獲』を命令されてるんでね。早速やらしてもらうよ」

「貴様が? 我を? 可能だと思うか」

「やってみねーと分からんでしょ。それに今は、」

白夜は一呼吸置いた。空を仰いで両手を広げる。

 

「今私の中に、『荒魂』は全て存在する」

 

白夜が、眼前から消えた。

そう、消えたのだ。一切の前置きも事前行動も、匂い等の五感からも消滅した。

「!?」

アジ=ダカーハは驚愕し、

「私は此処だ」

成す術も無く吹き飛ばされる。

「ぐっ・・・・・・・・・!」

アジ=ダカーハは、一人で六柱の神霊と間違い無く世界最強の戦艦と互角以上の戦いをした。その疲労は大したものでない。白夜は、そのアジ=ダカーハの戦闘能力すらも軽く凌駕する程なのか。

アジ=ダカーハにとって、それ以上の誤算は白夜の『荒魂』が現在、全て白夜の中にあるという事だ。

『荒魂』は、白夜の戦闘能力を大幅に上昇させるものであるが、帝国にとっても国防でとても大切なものだ。帝都とその中の重要建築物を覆う『全知結界』を維持出来るのは、他ならぬ『荒魂』のお陰である。

現在の帝都は最強の守りを捨て、帝国は本丸丸裸の状態でアジ=ダカーハと戦っていたという事。それがアジ=ダカーハにとって大きな誤算。

「安心しろアジ=ダカーハ。私は『悪竜』を討伐する気は無い。捕縛して、世界全体にその羞恥を公開してやるつもりだから」

「その方がよっぽどたちが悪い」

アジ=ダカーハは目の前の、『悪』という自分を超える試練を睨んだ。

「貴様を引き裂き、我は帝国連中への復讐を達成する」

「やれるもんならやってみな。私を、国家最強の壁を、安々と砕けると思うなッ!!!」