東方物語録 ~東方二次小説置場~

『堕華(おちばな)』っていう馬鹿が小説を公開してる所です。不定期でない程度に不定期。

日喰異変 ~東方陽蝕昼~ Ⅶ

城壁の向こう側には、広大な庭が広がっていた。

様々な色彩を見せる花々。とてもではないが城の景観に似合わない。中には、七色に光る見た事の無いような花まで点在している。幻想郷でも見た事ないそれは恐らく、この城内でも大変希少なものなのだろう。

「紅魔館より広いな。」

「そりゃあ、館と城じゃ規模が違うでしょ」

レミリアが冷たく返事する。自分の住む場所である紅魔館が馬鹿にされたように言われたからであろう。レミリア魔理沙にそっぽを向けて、城の中の建造物の中でも一際大きく、存在感がある天守を指差した。

「多分、あれの一番高い所に居るんじゃない?」

「お前ら吸血鬼は高い所が好きだな。何だ? 低所恐怖症か?」

「そんな訳無いじゃない。私も好きって訳じゃないし」

「どうだか」

魔理沙は抑えきれない笑みをこぼしながら、城の周囲を見渡す。最も巨大な建築物である天守の他に、複数の塔や小規模の館等がある。塔は哨戒の為に高く建てられている。館は召使い等の寝床だろうか、見た所二階か三階程しかない。

魔理沙はその中で、一階分の高さで黒塗りの煉瓦で造られている建物を見つけた。

「おぉ? あの雰囲気はもしかして地下に続いてるのか?」

数々の無断貸出と無期限延滞、言い変えるならば窃盗を続けている魔理沙の眼力が反応した。あの建物の地下にはもしかしたら物凄いお宝が眠っている可能性があると。窃盗常習犯の眼力が反応したのだから、その可能性は十分にありえる。

霊夢に先を越されてこの異変を解決されるのも癪だが、今の魔理沙にとってはお宝の方が興味がある。吸血鬼の城のお宝なんて、想像すらも出来ない。きっと物凄い魔導書が存在するに違いない。

「すまんレミリア、少し用事が出来た。お前は先に行っててくれないか」

「は? いきなり何よ。用事が突然出来る訳ないでしょ」

「お前には無くても、私にも有るんだよ。じゃあな」

魔理沙レミリアを放って、目的の建物に接近を試むべく箒を翻した。地上の黒塗り煉瓦に向かって結構な速度を出して接近。結界のようなものも無く、簡単に入口に到達した。

一階分程度の高さとはいえ、高さ二、三メートルはある。それより若干低い高さながらも、入口は鋼鉄の門によって閉ざされていた。魔理沙の背丈を優に越えるそれは、人間の少女の腕力では到底破壊も突破は出来るような物ではない。

故に魔理沙は即決即断。帽子の中からミニ八卦炉を取り出し、少し門に離れて砲口を向け、スペルカード宣言をした。

「恋符『マスタースパーク』!」

ミニ八卦炉から放出された無慈悲の光の渦は、門をいとも簡単に吹き飛ばす。門だった鋼鉄の破片は破砕し、辺りに豪快に散らばった。魔理沙はミニ八卦炉を帽子の中に仕舞って、大股で黒塗り煉瓦の建物に入っていく。よもや自分の家に入るかのように。

 

「何よ、勝手に付いてきて勝手に離れるなんて。別に良いけど」

自分勝手も良い所だ、とレミリアは吐き捨てた。ちょうど魔理沙が、『マスタースパーク』で鉄の門を完全破壊した所だ。レミリアは心の中で率直な感想を述べていく。

「あの地下には確かに宝らしいものはありそう。だけど、人間じゃない奴が地下に居る」

同族の気配。レミリアが黒塗り煉瓦の建物を見て、最初に感じたものだ。この城に入ってからというもの、二つの大きな気配がレミリアの感覚を燻っていた。

一つは天守。一つは地下。正反対の位置に存在するその同族達を、

「私とフランみたいね」

少し、ほんの少し前までの自分達のように思えてしまった。だが、今は過去を振り返るような時間ではない。同族に説教してやろうと思って来た最中だ。

レミリア魔理沙を置いて、即座に天守に接近した。見た所三階程の思える高さの窓に、強烈な体当たり。高級感溢れる硝子は簡単に砕け散り、レミリア天守の中への侵入を紅茶を淹れるよりも早く成功させた。

「さて、さっさと進むか」

レミリアはまず、階段を探しに天守三階を歩き回る事にした。

 

「長いな」

長い、長い階段。地下深くへと続くこの階段は、段差は普通ながら巨人が歩くのに使うのかと思う程広い空間に存在していた。真下まで続いているのだろう、階段は螺旋状に建設されている。響く自分の足音を聞きながら、魔理沙は地下深くまで潜って行った。

歩く事、二十分。

「やっと最下層か」

途中に分かれ道が幾つか有ったが、魔理沙はそれに構わず下を目指した。その結果最下層にまで辿り着いた訳である。

「中々広いが、これは」

入口から入ると少しだけ開けた廊下。久し振りの侵入者を、火の灯った蝋燭は火を揺らめかせて歓迎した。魔理沙の視界に入ってきたそれは、

鉄の門で廊下と部屋を隔てた物が幾つもある。

牢獄だ。

「確かに、お宝がありそうなムードなんだが」

城に牢獄は付き物だろうが、ここまで地下深くに造る必要性はあまり感じられない。

魔理沙は廊下を進んでいき、牢獄の一つ一つの鉄格子の向こう側を、廊下側から見る。ボロボロになった布やら人骨が目立って存在するが、お宝らしいものは見当たらない。数えて十個目の牢獄の次には、一際目立って巨大な牢獄が用意されていた。

「でかいな」

思わず声を漏らした魔理沙。大きすぎて、廊下から天上近くでぶら下がり歩行者の視界を照らす蝋燭の明かりでも、その牢獄の一番奥まで見る事は出来ない程だ。宝があるのならば此処以外にないと、魔理沙は目を凝らして牢獄の奥を覗いてみる。

「ん?」

魔理沙は、一つの人影を発見した。目が暗闇に慣れてくると、その人影がドレスのような物を纏っている事を確認できた。頭には王冠らしいものまで。

「・・・・・・・・・・・・・、誰?」

魔理沙に気付いた牢獄の中に居る影は、魔理沙にこう問うた。

と同時に発されるのは、熱を持った優しくも強い風。

「っ!」

魔理沙は危うく、吹き飛びそうになる帽子を押さえこんだ。風は廊下と他の牢獄を駆け、蝋燭を揺らめかせ牢の中の塵芥を廊下の向こう側、階段の方にまで吹き飛ばしていく。

「もう一度問います。このような所を訪れるのは誰? この絳緋城の者ではないな」

「私は霧雨魔理沙。迷子になった探検家だ」

息を吐くかのように平然と嘘をつく魔理沙。だが、相手の正体が分からない以上は「この城の吸血鬼に用があって殴りこみに来た、霧雨魔理沙。魔法使いだ」とツラツラと事実は言えないだろう。

「こんな所にまで探検に来るとは、只者ではありませんね」

人影は立ち上がり、鉄格子がある方にまで歩いてくる。彼女の一歩と同時に、閉鎖空間に風が吹き上げ、瞬く間に廊下を掃除していく。

彼女が魔理沙に近づき、鉄格子まであと一歩の所で彼女から一際強い風が吹く。風は廊下を蹂躙し、蝋燭の灯を瞬間で消してしまう。彼女がもう一歩歩いて鉄格子を隔てて、魔理沙の直ぐ目の前まで来ると、再び蝋燭の先端部分の綿糸に火が灯る。

魔理沙は蝋燭の火によって照らされた彼女の眼を見て、少しだけ驚愕した。

吸血鬼特有の、獲物を見定める赤い紅い瞳がそこにある。

「私は、吸血鬼始祖族ブローディ家の統領。トゥリズン=ブローディと申します」

一人の吸血鬼が、一人の人間に笑顔を見せた。