東方物語録 ~東方二次小説置場~

『堕華(おちばな)』っていう馬鹿が小説を公開してる所です。不定期でない程度に不定期。

日喰異変 ~東方陽蝕昼~ Ⅷ

「さて、本当に広いわね」

レミリア魔理沙を見捨てて、もしくは魔理沙に見捨てられて、天守の三階を歩き回っていた。幾つかの扉を見つけて部屋の中に侵入してみたものの、中には誰も居なかった。何せ、悔しいが三階ですらも紅魔館より広く感じるのだ。一つしかないであろう階段を探しだすのは容易ではないだろう。

「元々空を飛べる私達にとっては階段はあって無いようなものだし。階段自体あるのかしら」

紅魔館に階段があるのも、飾りであって本来実用的ではない。飛べばそれで終わりなのだから。もしかしたらこの城は、その実用的ではない階段を撤去した本当の悪魔の城なのかもしれない。

だが、そのレミリアが持っていたその自論は直ぐにダストシュートされる。

「誰だ貴様! この城の者ではないな」

足音を響かせ、階段から降りて来たのは一人の人間。軽装ながらも戦時中と思える、胸部に軽い鎧を着用し、脚部にも装甲がある。見た目こそ貧弱で実用性の無さそうな甲冑だが、レミリアが注目したのはその点ではない。

人間の身にして、吸血鬼の瞳を持つ者。

「我々の血を受け入れた人間か。吸血鬼化した者」

「吸血鬼、それも高名なスカーレットのレミリア嬢か」

「? 私の事を知っているのか?」

まさか自分の事を知っているなんて。レミリアは驚きで目を丸くした。

「勿論。五名家のスカーレット、それの我儘多きお嬢様と言えばこの城でも有名だからな」

騎士らしい少女が小さく笑う。その腰には柄の長い剣を挿している。笑う仕草だけでも、少女が如何に優秀な騎士である事が容易に想像出来た。

「私はドラクレイ=マレキリアス。大公閣下に仕える竜騎士、ドラクルだ」

「ドラクル、」

レミリアは思わず復唱した。それは自身が、何時頃かこそ忘れたが読んだ本にその単語が書いていた気がする。

だが、今思い出しても大した事にはならないだろうと切り上げる。

「なら私を、お前の主人の所まで案内しなさい。私は客よ」

レミリアが指を指して命令する。だが、ドラクレイはそれを拒むかのように顔を振った。腰に差している剣をゆっくりと抜いて切っ先をレミリアに向ける。

「残念ながら閣下は今、大切な儀式の最中だ。客人が今謁見出来るような状態ではない。早々に帰還し、大人しく館に閉じ籠っていてほしい」

此処に残るのならば、一戦交えるしかない。ドラクレイは切っ先にそのような思いを込めているのだろう。レミリアはドラクレイのその思いを感じ取って、不敵な笑みを浮かべた。

「嫌だね。わざわざ家から出てきてやったんだ、盛大に歓迎会をしてもらわないと困るわ」

レミリア嬢が困った所で我々には関係無いのだが」

「言ってくれるわね。私に問題が有るって言ってるでしょ?」

「それも、そうか」

ドラクレイは剣の切っ先をレミリアに向けたまま、柄を両手で持つ。その動きが、開戦の合図となった。

 

 

「お前がこの城の一族の統領? そんな奴が何で牢獄の中に居るんだ」

「不思議? まぁ、貴女の常識では不思議かもしれませんね」

トゥリズンは鉄格子のすぐ近くに椅子を置き、それに座った。

「貴女の歳ならば暴君、という言葉はご存じですよね?」

「暴君? 知ってるぜ、横暴な君主の事だろ」

魔理沙も、石で出来た地面に座る。蝋燭の灯だけでは足らないだろうに、石で造られ冷たい筈の地面は何故か冷たくない。むしろ温かい位だ。

「権力を振るい続けた暴君に、民衆は失望し、激動し、決起した。欧州の歴史に頻繁ではない程度に起きた真実です」

「へぇ」

無気力な返事を返す魔理沙。トゥリズンはその態度を気にせず話を続ける。

「それが、私の場合でも同様に起きた。民衆は無い力を結集させ、力を持つ暴君を地下深くに幽閉した。それだけです」

魔理沙は意外な過去を聞かされて、正直驚いた。その方向に関する知識が乏しい魔理沙だが、ふと疑問が頭の中をよぎる。

「民衆はどうなった? それと、普通捕まえる事が出来たなら処刑まで追い詰めるんじゃないのか」

「処刑までは至りませんでした。妹が、私を一生懸命守ってくれたのです」

「妹が、」

妹、と言われるとフランを思いだす。だが、フランの場合は姉が妹を守っていた形だ。この姉妹の場合は逆という訳なのか。

「私の妹が、貴女達が目指しているという吸血鬼です。が、」

トゥリズンは不自然に一呼吸置いた。

「今は手を出さないでほしい。今妹は、大切な儀式を途中なのです。その証拠が、光を食べられた太陽と不意に浮かんだ紅い月」

魔理沙はその言葉を聞いて不思議に思う。この牢獄に居て、何故外の事が分かるのかだ。まぁ、吸血鬼が持つ摩訶不思議な能力の一つなんだろうと思って考えを断ち切る。

「先程の質問の答えを言い忘れていましたね。民衆は、

 

暴君の私を救った妹が、ティユエルが、私に反旗を翻した五万の民衆を全て、磔刑に処しました。私個人を救う為に、町を支える市民五万人を、全員処刑したのです」

 

 

 

昔々。吸血鬼の姉妹が統べていた、小さな国が一つありました。

その国は、とても豊かで、一部を除く国民は毎日を楽しく過ごしていました。

 

しかしある日。突如として全て国民は、姉妹に反旗を翻します。

一部の国民は、裏で姉妹を『暴君』として祀り上げていたのです。多くの国民が、偽りの暴挙に震えあがり、いつか自分達にも恐怖の矛先が向けられると思ったのでしょう。

革命軍は首都を蹂躙し、抵抗する善良な民を惨殺し、女王を地下深くに幽閉する事に成功しました。

革命は成功したかと国民は思いました。ですが、その考えは甘かったのです。

 

女王の妹君は、反旗を翻した国民を一人残らず捕えました。

そして捕えた反抗者と、纏めて磔刑に処しました。

 

姫君は、その磔刑の光景を見ながら、血のワインを飲んで楽しんだと言います。

血の雨を受けながら、声を上げて笑う吸血鬼。

 

善良で生き残った民はそれを、恐怖と悪意を込めてこう呼びました。

 

『血雨と磔刑の吸血姫』、と。