東方物語録 ~東方二次小説置場~

『堕華(おちばな)』っていう馬鹿が小説を公開してる所です。不定期でない程度に不定期。

日喰異変 ~東方陽蝕昼~ Ⅺ

悪魔の要塞、紅い月が照らす月光の下に姿を浮かばせる古城。その城塞で最も高い建造物、『天守』の五階・『謁見の間』。

 

閉鎖された空間にて、金色の髪が靡く。

 

其処で、一人の王威溢れる悪魔が一冊の本を朗読していた。

「遥か太古の時代。未だ人類と言う種が存在しなかった、古の物語」

吸血鬼、ティユエル=ブローディ。吸血鬼五名家の筆頭家系のブローディ家の統領代理。

「或る時、一人の神が生まれた。これが、聖書にて語られる唯一絶対と呼ばれる神霊」

ページをめくるティユエル。その本には文字らしい文字が書かれていない。長い間保存されていたそれは外装も中身も風化し、本として記録を残す媒体としての価値はゼロに等しい状態だ。だが、吸血鬼が読み続ける。読めない文字すらも読んでいるかのように。

「同時に、一人の悪魔も生まれた。これが、我等吸血鬼と呼ばれる者達の祖」

ティユエルは読み続ける。そして、本の中の世界に自分の精神の身を投じた。

 

 

吸血鬼という種族は、人間が生まれる以前に存在していた。

神が手足として生んだ天使達とも仲良く、神が天を。一人の吸血鬼が地を統治し長い間平和は続いていた。一人の吸血鬼は孤独を嫌って、神と同じように自分に似せた『吸血鬼』という種族を生みだした。

長い平和の果て。地上に天から追放された『人間』。それから人間達は数を増やし、何時しか吸血鬼達の数を上回った。人間と最初は仲が良かった吸血鬼達は、やがて人間の数に押されて地上の奥地奥地へと身を隠していった。

吸血鬼達は、だがそれも良いと思っていた。互いに干渉してもしなくても、その平和は未来永劫続くと思っていた。人間が繁栄する事が理ならば、我等吸血鬼は歴史の闇に埋もれようと。それが運命ならば従おうと思っていた。

 

甘かった。

 

たった一つの誤解から、その平和は崩れ去った。やがてその誤解は広まるにつれて肥大し、誇張し、何時しか『吸血鬼は悪』という根拠の無い言葉と考えが生まれた。

人間達は奥地に住む吸血鬼達を追いまわし、更なる地上の奥地へと追いやる。吸血鬼達はそれでも、これが運命なのだと思ってその運命を受け入れていた。

 

否。受け入れようと、必死に自分達を騙していた。

 

人間達はやがて、自分達が信じる『神』にこう願いでた。

 

「吸血鬼達を滅ぼして下さい」と。

 

吸血鬼の友である筈の神は、理由こそ不明だがその願いを受け入れた。天使の軍勢を派遣し、本格的に吸血鬼達を滅ぼそうとした。神の意図は本人にしか分からない。人間達が願い、それを実行するまでに長い時間があった事から、本人もかなり悩んだのだろう。その末に『滅亡』という手段をとった事だったのだ。

 

この事態を受けて、吸血鬼の祖は告げた。

 

我等の友情とは何だったのか?

長い月日だけで薄れる程度のものだったのか?

一つの誤解だけで、裏切れる程度のものだったのか?

 

その程度の友情ならば必要無い。

最早これは運命でなく、我等に降りかかった試練である。

 

天使を滅ぼし、神を滅ぼし、人間を滅ぼし、天と地上を我等吸血鬼のものにするか。

我等吸血鬼を滅ぼし、天と地上を人間と神のものにするか。

 

我等はこの試練に打ち勝たなくてはならない。それこそが真実の運命なのだ、と。

 

神は吸血鬼に、とある強力な呪いを与えた。

 

『吸血の呪い』。血を飲まねば生きてはいけぬ、高貴な種族を動物として扱われた不名誉な呪い。

『太陽の呪い』。太陽の光を浴びれば死ぬという、夜の世界への投獄宣言となった不自由の呪い。

 

この二つの呪いは吸血鬼達に力を与える副作用もあったが、吸血鬼達はこの呪いにより少ない数を更に少なくしてしまう。よって、吸血鬼は血を吸う事で眷族を生みだすという、数を補完する呪いを自らに付与した。

 

 

「我等吸血鬼は戦いに負け、天と地上は人間と神が支配する事となった」

ティユエルは本を閉じる。本に挟まっていたホコリが舞い、足元の紅のカーペットを汚した。

「吸血鬼の祖は、何時か天と地上を奪え返さんとする為、更なる力を自身に与えた。それが五名家のそれぞれが持つ天賦の能力」

それは、自らが生んだ五つの家系に分かれる事で分裂した。だが同時に能力の全滅の可能性も減った。吸血鬼の祖は五名家の一つ・筆頭家系の『ブローディ家』と、自らの家系と称する事にした。

「私達ブローディ家は、あらゆる手段をもって神に対抗した。だがそれら全ては、神によって防がれた」

歴史にも聖書にも残っていない。我等吸血鬼達だけが所持する太古の真実。

 

・・・・・・・・・・・・・・・この戦いの復讐は、終わっていない。

 

「まさに、今がその時。長い時を経て、遂に我等の願いが叶う」

天使に追われ。人間に追われ。遂に歴史にも追われ、このような辺鄙な場所にまで追いやられて。奴らは未だに我等を滅ぼそうとしている。

ならば、我等は歴史の裏からの手引きを止めよう。表立って、世界に闇を与えよう。

 

それが、日喰。

 

昼と太陽を蝕み、世界に我等吸血鬼が跋扈出来る世界を完成させる。

 

「これが我等絳緋の目的。私と姉様が求める世界」

謁見の間の、王座の反対側にある大きな扉。ティユエルは其処に、答えるように言った。扉は当然にも、静寂を保って佇んでいる。

「これが私と姉様が起こした異変の真実だ。これを知って、我等に何を言いに来た?」

「そりゃあ勿論、説教に決まってるわ」

静寂を守っていた扉が、無残にも吹き飛ばされた。かなり厳重な造りになっていたそれは、一人の少女の幼い拳によってバラバラに砕かれる。木片は辺りに撒き散らかされ、紅のカーペットは見るも無残に汚れてしまう。

その扉の向こうにいたのは、一人の吸血鬼少女。 

 

「同族に説教に来たわ、自称吸血鬼の王」

「やっと現れたか、レミリア・スカーレット王女」

 

二人の吸血鬼が、相まみえた。