東方物語録 ~東方二次小説置場~

『堕華(おちばな)』っていう馬鹿が小説を公開してる所です。不定期でない程度に不定期。

悪竜が歩いた跡・二

「ぐぅ・・・・・・・・・・・っ!」

アジ=ダカーハは白夜の攻撃を受け止めたと同時に、右腕を払って旋風を放った。これは『金剛城』やアルカディア、先程の戦艦『撃威』に対して用いたものとはまるで訳が違う。大樹は小枝に等しく、大地は小石に等しく、大海は水溜りに等しく、森羅万象を無慈悲の一言で薙ぎ払う無情の旋風である。その凶悪な旋風が、一陣の風の如く白夜に迫った。

「ふん」

白夜はこれを、全て一つの拳で薙ぎ払う。拳を振り上げた風圧だけで世界は揺れ動き、振り下ろした拳は世界を打ち砕く。森羅万象を切り刻む無情の旋風は、圧倒的破壊力を持つ一撃によって跡形も無く消滅した。

と同時に、白夜はまたもアジ=ダカーハの五感から消える。

「またか!」

既に白夜の消滅は三回目。一度目は対峙して間もなく。二回目は先程。三回目が今だ。今だに、このカラクリをアジ=ダカーハは解明出来ていない。

五感で駄目なら第六感。アジ=ダカーハは勘で、白夜の攻撃を予想。鍵爪を薙ぎ払って、竜巻を作り出した。この竜巻も、本質的には先程の旋風と同じ。無慈悲に全てを切り刻む無情の風として顕現する。

「こんなもの」

 案の定、白夜は竜巻を突き破ってアジ=ダカーハの背後から迫る。アジ=ダカーハは白夜が接近してきた方向を知り、右から振り向いて左腕の凶爪を白夜に浴びせた。全くの無防備だった白夜は、右手でアジ=ダカーハの凶爪を受け止める。

アジ=ダカーハの凶爪はあらゆるものを引き裂く恩恵を持つ。相手が仮令神霊であろうが、一部を除いてこの能力を無視する事は出来ない筈だ。

だが、白夜には全くその恩恵が働かない。

最強の戦女神の、恐ろしいカウンターがアジ=ダカーハの腹部に突き刺さった。

「がはっ・・・・・・・・・・・!!」

アジ=ダカーハの腹部にあった拘束具のようなものが、木端の如く砕かれる。アジ=ダカーハという強大な神霊を封印していたかなり高度な物だったのだが、白夜はいとも容易く打ち砕いた。アジ=ダカーハの溶岩に匹敵する熱の血が噴き出す。

その血は、大地と白夜に付着。すると大地に滴った血は、惑星の神気を吸って二つ頭を持つ巨大な蜥蜴の悪魔に、白夜に付着した血は、白夜の神気を吸って植物の悪魔となる。植物の悪魔はツルのようなものを使って白夜を拘束した。白夜の力を吸ったこのツルの締め上げる力は、巨峰すらも容易に砕くだろう。星の力を吸った蜥蜴の悪魔が、植物の悪魔ごと白夜を喰らわんと、大地を飲み干すような大顎を開く。白夜は、その蜥蜴の悪魔の喉を見て、一言吐き捨てた。

「馬鹿らしい」

白夜の瞳が、銀色に染まっていく。

白夜の神気が解放され、干渉の支配が始まる。

「っ!?」

不意に、蜥蜴の悪魔の大顎の動きが止まった。蜥蜴の悪魔は今自分が襲った相手に恐怖を感じ、冷や汗が流れる。

「邪魔だ、消えろ」

白夜は着物の袖を払う。それにより発生した爆風が、蜥蜴の悪魔も植物の悪魔も関係無く、抵抗する術も無く、ただ突風を前にした羽虫の如く、世界の果てまで吹き飛ばされた。爆風は大地を根こそぎ、全てのものを上空へと吹き飛ばす。

星の力を持つ悪魔と、白夜の力を奪って顕現した悪魔だったのだが。

「化物だな、まるで」

「どうも。あんたに言われたくないけどね」

白夜にとって、この長い生涯で吐き捨てられた罵詈雑言は星の数を優に超える。悲しい事に、最早慣れてしまっていた。

・・・・・・・・・・・・・・白夜は、数多存在する神霊の中でも、唯一無二の性質と天性を持った、格別の存在だ。

神ならずして、神を超える力。

全神霊の総兵力を超える、圧倒的な能力。

神霊では絶対に超える事が出来ない、正に『神々の試練』。

仮令肩の埃を取る力で、十万の都市を破壊し尽くす。

小石を拾う力で、百万の神霊を退ける。

箸で魚を取り摘まむ力で、五つの大陸を打ち砕く。

袖を払えば神が住まう天空を征服し、

吐息一つで生命を育む大海を制覇し、

指一本で命が謳歌する大陸を蹂躙する。

一興の一言で、世界の命運を一方的に決めれる存在。

【真なる武神】【最強の戦女神】という二つ名は比喩ではない。ましてや誇張も何もされていない。

但一つの間違い無く、この『華翠玉白夜』という存在は戦いにおいて、別次元の『至高の存在』なのだ。

「如何なる賢者が知恵を振り絞っても、如何なる豪傑が剣槍を数多翳し振り下ろしても、私を攻略する事も、ましてや傷を付ける事すら出来ないわ」

「確かに、その通りだな」

アジ=ダカーハの考える限り、目の前の存在は討ち倒せない。

白夜は相対する神霊の力をコピーし、自分の力にする事が出来る。アジ=ダカーハにとっては、白夜本来の実力と自分自身と戦っているようなものだ。

それに加え、白夜本人の圧倒的実力・センス。更に、『干渉を支配する』能力を持つ。

本来なら、白夜が油断している隙に短期決戦を挑むべき相手だ。それも一分も掛からないような時間のうちである。だが、今は既に十分は経過しているだろう。白夜に勝利する時間は無い。

・・・・・・・・・・・・・・・だが。

逃げ出す手段ならある。

アジ=ダカーハは鋭い尾で大気を切り裂く。すると空間が裂け、『元々の世界』が穴の向こう側に現れた。

その向こう側に映るのは、帝国の中枢たる『帝都』が。

「!! あんた、」

「貴様は倒せん。故に我は、この勝負を棄てるのだ。今は幸いにも、最も邪魔と考えていた『全知結界』が無い。これ以上の好機は二つと無いだろう」

「待てッッッ!!!」

白夜は逃げられる前に叩こうと、アジ=ダカーハとの間合いを一気に詰める。が、アジ=ダカーハはそれに構う事無く、空間の向こう側に身体を移動する。それと同時に空間の裂け目は閉じてしまった。

「・・・・・・・・・・・・・・くそっ!」

白夜の能力なら、世界と世界の間の境界に干渉する事は可能だ。だが、この類の事に関しては専門外。下手に干渉すれば、境界の狭間に投げ出されるだろう。その狭間から逃げ出す事は可能だが、長い時間がかかる。それこそ、『帝国』を救う事が出来ない。白夜は大人しく、アルカディアの援護を待つしかなかった。

 

 

「アジ=ダカーハが現れたぞ! 各個、対空攻撃開始!!」

帝都に存在する全ての対空攻撃システムが火を吹く。対空砲、地対空誘導弾、レーザー。ありとあらゆる攻撃能力が、侵攻者アジ=ダカーハに牙を剥いた。

だがそれは、蚊が象に針を刺すのと同じ。アジ=ダカーハは、直撃する砲雨に大した興味を持たず、帝都全体を見渡した。

帝国の軍事・政治の中枢、帝都アグニセスラータ。世界樹伝承と類似する程の巨大樹のふもとに発展した都市だ。この巨大樹は、起源神ウアスの他所在が確認されている起源神の一人『三色の樹』そのものである。如何なる攻撃を受けようと、この巨大樹が陥落する事は無い。

見た所、白夜以上の相手は居なさそうだ。アジ=ダカーハは下降し、両腕を一気に薙いだ。

森羅万象を切り刻む無慈悲の旋風。それが眼前の帝都に向かって吹いた。旋風は帝都に配置されている多数の対空攻撃システムを襲い、幾つもの大爆発を起こす。大方、火薬に火が引火したのであろう。アジ=ダカーハは続いて、二度目の旋風を吹かせた。

だがそれは、一人の少女によって全て撃墜されてしまう。

「『三色の樹』の、眷族か」

「違うね。私は樹であり樹でない者。アルテミ=シオヌス=彩=ユグドラシル、『三色の樹』そのものだよ」

起源神『三色の樹』アルテミ=シオヌス=彩=ユグドラシル。帝都が存在する大樹の神霊であり、世界に命と彩りを与えた起源神。その器が、アジ=ダカーハに立ち塞がった。

「『悪竜』アジ=ダカーハ。お前が生まれた時に拝火教ごと消しておくべきだった。善悪だけで統治された神話なんてロクな事にならない」

「貴様ら起源神の判断が誤った事だ、我は知らん。今我を討伐すればよかろう?」

「それもその通りよね」

150センチも無いであろう少女が敵対するのは、世界を征服する力を持つ悪竜。何も知らない者が見れば無謀に見えるこの勝負だが、避難している帝都民は知っている。

『三色の樹』アルテミ=シオヌス=彩=ユグドラシルは、帝都の守護神としても奉られている。ありとあらゆる脅威を取り除く守護神。シェルターに避難している帝国民は一人残らず、その守護神が脅威を撃退すると確信している。

この場合、我こそ脅威か。

「いくぞ起源神」

アジ=ダカーハは一気に間合いを詰める。シオヌスは、音を置いて振り下ろされる右手の凶爪を、右手に持つ木刀で受け止めた。無情の旋風は、シオヌスの身体を容赦無く切り裂く。一太刀受けただけで、シオヌスの身体は幾つもの傷が出来、高い技術で縫われた服は成す術も無く切り裂かれた。

だが、アジ=ダカーハの攻撃を真に受けた木刀はものともしない。

「はっ!!」

シオヌスは木刀を振り払ってアジ=ダカーハの凶爪を払い除ける。それと同時に、小さな身体を活かしてアジ=ダカーハの懐の飛び込んだ。一歩間違えれば袋の鼠、という所をシオヌスはあえて踏み込む。アジ=ダカーハは、シオヌスの攻撃を退ける為、自身の周囲に竜巻を引き起こした。この竜巻は幾多の命を等しく切り伏せる無情の旋風と同系統のものだ。竜巻はシオヌスの身体を切り裂き多数の鮮血を舞わせる。だが、シオヌスは竜巻の存在を無視してアジ=ダカーハに木刀の一撃を与えた。

「ちぃっ・・・・・・・・・・・・!!」

木刀による一撃は、裂傷ではなく打撲の類である。出血無しでアジ=ダカーハに効果的な一撃を与える事が出来る。出血させれば、アジ=ダカーハの能力により魑魅魍魎が召喚される。化生が存在するだけでも、相対する側は不利となるだろう。

アジ=ダカーハは吹き飛ばされるのを抑え、懐の中に居るシオヌスへの攻撃の好機として、更なる竜巻を発生させる。

と同時に、アジ=ダカーハはシオヌスとの間合いを開いた。

「!?」

シオヌスは竜巻の中にいる。アジ=ダカーハの行動に対して一歩反応が遅れてしまう。木刀を払って竜巻を吹き飛ばすシオヌスだが、アジ=ダカーハの姿を見失ってしまった。

「めんどっちいなぁっ」

アジ=ダカーハの攻撃は、一撃でシオヌスを戦闘不能に陥らせる事が可能だ。木刀で受け止めなければ戦線離脱、その後帝都は悪意に蹂躙されてしまうだろう。シオヌスは五感をフル稼働させてアジ=ダカーハの現在位置を確認しようとする。

眼下に響く爆裂音。

「まさか帝都をっ!?」

先にそっちを狙ったか。シオヌスは爆発があった場所の確認を急ぐ。眼下の都市群で、色々な所で煙が上がっていて。

「守るべきものを持つ者は、さぞ戦いにくいであろう」

頭上から、アジ=ダカーハの凶爪が振り下ろされた。

大気の壁を突き破って叩き落とされるシオヌス。

「が、はっ・・・・・・・・・!!」

「貴様はこれで終わりだ。これで最後の守りは消えた。これで

「これでどうする気?」

何者かの声と同時に、アジ=ダカーハはシオヌスと同じように、同じ方向に叩き落とされた。

「っ!?」

アジ=ダカーハは受け身と取って落下の衝撃を最小限に抑えると同時に、凶爪を振って幾つもの竜巻を発生させる。正体不明の人物の、追撃を回避する為である。竜巻は風を捲き上げ、アジ=ダカーハを攻撃した人物に集中する。

だがそれらは、見えない障壁に阻まれた。

「明星の一閃、」

アジ=ダカーハに攻撃した彼女が片手を振り上げると同時に、天に大規模な魔法陣が展開される。そのサイズたるや、帝都を抱える大樹『三色の樹』の横幅よりなお大きい。百里四方は広がっているであろう。

「放て」

魔法陣から放たれたのは、光る槍の形をした細長い光の束。それが雨の如く、一切の隙と一瞬の間隔を与えずに降り出した。

「ぬおっ!!」

すかさず、アジ=ダカーハは自分に当たるであろう全ての光の束を、竜巻を何十も発生させる事で迎撃する。だが、アジ=ダカーハの端の二つの頭は自身への直撃コースの攻撃を他に見極めた。

天に広がる魔法陣、それから降りだす光の束。その全てが、アジ=ダカーハに向かって集中砲火してきたのだ。

「くっ」

アジ=ダカーハは更なる竜巻を発生させる。その数は今や二百四十にも及んだ。振り出す光の束は竜巻と、その中にいるアジ=ダカーハに執拗な攻撃を加えていく。

やがて、天の雨がやむ。

「しぶとく生き抜いたか」

「貴様は、」

蒼い長髪。それに加えて頭には大きな角が二本生えている。赤紫の光を灯すその瞳は、世界の全ての事象を見抜く。

「全知、リルア・オムニポテント・ヘルヴェルか」

「如何にもその通りよ」

リルアは大きく指を鳴らす。すると今度は、世界の彼方までの地表全体に、巨大という言葉が余る程大きい魔法陣が展開された。

「六道崩壊。天と地は再び飲み込まれる」

「!!」

アジ=ダカーハは直感的に空に舞う。と同時に、先程アジ=ダカーハが居た場所が陥没した。それも、底が見えない程の陥没だ。アジ=ダカーハの目をもってしても、地獄の扉まで続いているのではと思う程である。

だが、その陥没は単なる前兆に過ぎなかった。

 

世界が、崩れた。

 

北の山脈は砕け、大規模な山崩れを発生させる。南の大海は膨張して幾つもの津波を発生させ、海岸沿いの全てを飲み込んだ。大地は大規模なひび割れを起こし、世界の深淵への扉を開く。

リルアの一言の呪言で、帝都付近は瞬く間に壊滅に追い込まれる。

「白夜。何をしてるのさ、さっさと出てきてよ」

「はいはい、でもあんたが手出ししなきゃ私向こう側から出てこれなかったんだから」

リルアの足元に開かれた魔法陣。そこから現れたのは、アジ=ダカーハが勝負にならないと悟って勝負を投げた相手、華翠玉 白夜である。先程と同じく、神威を解放し全ての干渉を支配している『華郷白夜大(王)神』の状態だ。

華郷白夜大神が顕現するだけで、世界が震え上がる。何もしていない。何もしようとしていない。ただ世界に存在するだけで、世界に畏怖を与える最強の戦女神。

「おうおう、『樹』の奴あっさり負けちゃったか。まぁ人造物に魂を降ろしたらそんなものか。五分戦いになってたら上出来だよ」

「『樹』は良い時間稼ぎをしてくれた。お陰で私が帝都の最小限の防御を整える事が出来たし。そしてこれから、私と白夜の時間だ。白夜、」

「あいよ」

白夜が再びアジ=ダカーハの五感から消え失せる。俊足による移動ではなく、透過による不可視でもない。その表現の如く、アジ=ダカーハの五感から消え失せたのだ。

「ふっ!」

アジ=ダカーハはすかさず右腕を薙ぐ。四度目ともなると、カラクリは兎も角対策程度は考えれる。アジ=ダカーハは自身の周囲に竜巻を発生させてどこから出てくるかを判断をしようとするが、

竜巻が、発生しなかった。

「何!?」

「はい、残念」

白夜がアジ=ダカーハの三頭の右の頭の上に出現する。竜巻が発生しない事に驚いたアジ=ダカーハだが、このままでは一撃で屠られる。薙いだ右腕をそのまま防御に回す。残る左腕はカウンターの為構える。

白夜の無双の一撃が、アジ=ダカーハの右腕を襲った。

「ぐっ・・・・・・・・・・・・・・!」

敢えて防御の上に攻撃を叩きこんだ白夜には絶対的な自信があったのだろう。アジ=ダカーハは痛みを我慢し、嗚咽を飲み込み、カウンターに準備していた左腕で白夜を襲った。

白夜は防御の動きを一切取らず、アジ=ダカーハの一撃が直撃する。

だが、前と同じように全く通じなかった。更に、アジ=ダカーハは驚いた。

「無慈悲の力が失われているだと!?」

「遅いぞ悪竜」

リルアは掌に唸る雷流を発生させる。その電撃は、天を舞い地上を焼く天雷とは比較にならない威力を有する。命を持つ者が触れればそれを奪い、無機質に触れれば二の句も無く蒸発する。神霊すらも滅ぼす雷の最強格、『龍雷』である。

龍雷は神話の伝承が無い。伝承する存在が全てその雷で滅ぼされたからだ。龍が操る天雷の類ではなく、天候を操り空を駆る龍そのものを滅ぼす雷。

それが天の雨の如く、アジ=ダカーハに降り注いだ。

「ぬああああああああああああ!!」

幾千幾万もあるであろう光の槍は、アジ=ダカーハの身体を貫く。その傷から放出した大量の血は、悪魔となる前に雷によって蒸発する。アジ=ダカーハは気合と凶爪で光の槍を悉く撃ち落とすが、数が数だ。迎撃の穴を抜けた龍雷はアジ=ダカーハに激痛を走らせる。

「(これが世界最強と名高い二柱! これでは我が討たれてしまう・・・・・・・・・!!)」

華翠玉白夜は、人類の歴史である「戦争」の権化。人類史を彩る神話を凌駕し、神話に残る神霊を討ち倒す無双の神格だ。悪竜アジ=ダカーハも世界の悪をもって生まれたが、白夜との力の差は歴然。正面からでは勝ち目が無い。

リルア・オムニポテント・ヘルヴェルは、過去に天から降臨した天津神で最古の破壊神「リヴェン・キングアトラス」を討ったとされている鬼神。人類を末世から救いだす運命を背負い、その人類を滅ぼす術を幾つも所持し全知の権能も持つ。全知が相手では、如何なる姑息な手段も通用しない。

龍雷の雨が止まると同時に、白夜が一気にアジ=ダカーハとの間合いを詰める。それを見たアジ=ダカーハが白夜を迎え撃とうとする刹那。

「束縛」

アジ=ダカーハの身体の自由が奪われる。無防備となったアジ=ダカーハの脇腹に、白夜の拳が叩きこまれた。

「(こんなもの、勝負にすらなるかっ・・・・・・・・・・・!!)」

アジ=ダカーハは身体の自由を感じると、即座に凶爪を地面に叩きつけた。元々崩れかけていた地面だ。簡単に瓦解し、砂埃が舞った。これにより視界を潰したアジ=ダカーハはリルアに急速接近する。

「何処に居るか見えないけど、とりあえず白夜。広域に警戒」

「あい。索敵結界展開」

リルアはこの動きを脱走に使うを判断した。だが、アジ=ダカーハはリルアの背後。気配を殺し、リルアに凶爪を叩きつけた。この程度の攻撃でダメージを受けるとは思えないが、体重の軽いリルアは凶爪の重みに耐えきれず吹き飛ばされる。

「索敵結界に飛行物体発見、ってリルア!? 何吹き飛ばされてんの!?」

「(これでならいける!)」

リルアが吹き飛べば、白夜は必ずそれに反応する。その油断を突き、境界を切り開いて離脱。アジ=ダカーハが考え抜いた最後の戦略だ。アジ=ダカーハは、即座に空間を切り開き、境界の壁を開けた。

「!? アジ=ダカーハ、何をするつもりだ!」

「逃げるんだ」

アジ=ダカーハは境界の穴を乗り越える。穴はアジ=ダカーハが通ると同時に塞がった。白夜は舌打ちをしながら着物の袖を一振り。砂塵を吹き飛ばして視界を良好とし、索敵結界の有効範囲を全世界にまで広げた。

「リルア、あいつは私が追うわ。あんたは帝都を防衛して」

白夜はそう言い残し、南に飛んだ。残像も風も、何もかもを残さず。

 

 

 

 

「この付近だと思うんだけど」

常人でも見える程のスピードまで減速し、白夜は改めて索敵結界を確認した。天軍が降りてきた時はジャミングで使用停止になってしまったが、今は最高の状態の白夜が使用している状態だ。如何なる妨害もこの力の前には塵芥に等しい。

索敵結界で最後にアジ=ダカーハの姿を確認したのはこの付近で合っている。索敵結界に映らないというのはどういう事態なのかよく分からないが、まだ近くに居る事は間違いない。五感を張り巡らし、辺りの状況を探る。

 

立ち止まって二分。南西の方角で大爆発が起きた。

 

「見つけた」

白夜は、瞬きより雷鳴より光よりも早く、爆発のあった場所に移動した。刹那という時間よりもなお早い。この早さについていける存在は他に無いだろう。

「アジ=ダカーハの、眷族?」

索敵結界にも白夜の視界にも確認出来たのは、アジ=ダカーハの眷族と思われる対の頭を持つ龍。その龍が凶爪を振り上げ、少女に牙を剥いていた。今まさに彼女の命を奪わんが如く。

「私の目の前で、そんな事させてたまるか」

白夜は瞬時にて龍の背後に到達。龍が白夜の存在に気付くその前に、白夜は拳を叩きつけて地面にめり込ませ龍の活動を停止させた。

「は、この程度」

白夜は沈黙した龍を睨んだ後、襲われていた少女の無事を確認し、笑顔で問うた。

「こっちに、大きな龍が来なかった?」

「え? え、あ、」

少女は混乱しているようだ。だが、ゆっくりと西の方角を指差している。帝都から遠ざかるように逃げているのだろう。それなら納得がいくと、白夜は笑顔で少女に顔を向けた。

「ありがとう。気を付けてね」

世界全体に展開・維持している索敵結界に、付近に存在するアジ=ダカーハの眷族は存在しない。白夜の目からして安全だと判断し、少女を置いて西の方角に飛び立った。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、白夜が飛び立って三分後。

「甘いな、」

その場に立ち尽くしていた少女が、可愛らしい唇から世界を恐怖で染め上げるような覇気が込められた声を出した。着ていた白い服は除々に黒く染め上がっていく。

「少女の指先一つで動く戦女神、甘いにも程がある。容赦を覚えてはならない筈だ」

口調。覇気。頭に生えた二本の角。容姿こそ非なるが、誰しもが『奴こそが悪竜』と断言出来る存在。世界の悪を背負って生きる『絶対悪』。

アジ=ダカーハ。

「力を出来る限り抑えれば、索敵結界に映らないようだな? 役に立つ情報を手に入れた」

力を抑えるという事は多くの能力、力すらも使えなくなると同義。だが、帝国への復讐の為ならこのような不便、何とも思わない。

その後、アジ=ダカーハは帝国に対して、ゲリラ戦を展開。数十年に渡り多くの都市と人材を奪い、時間と金を奪い、尊厳と誇りを強奪する事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様が、リヴェン=キングアトラスか」

「応よ。何処からでもかかってこいや悪竜」